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押井守、『ラ・ジュテ』を語る。

2017年12月8日に『ラ・ジュテ』デジタル修復版のBlu-rayが発売になります。封入ブックレット(32ページ!)には「この映画に出会ってなければ映画監督になっていなかった」と語るほどに影響を受けた押井守監督の長文インタビューを掲載。その抜粋を予告編的に読んでいただきます。(BDディレクター 山下泰司)

 

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『ラ・ジュテ』を最初に観たのは大学1年生だったかな。学生がやってる上映会で観た。もちろん当時は映画情報誌なんてない時代だけど、「読書新聞」というのがあって、その最後のページに自主上映とか上映会の案内が並んでたんで、それをチェックして。『ラ・ジュテ』はそんなにかかってなくて、上映会で見たのは2回くらい。

 

だけどもっと観たくて、自分で直接16mmのフィルムを借りたことがある。料金は確か一日5,000円しなかったかな。当時は月1万円で暮らせたからかなりの出費だよ。夜中に大学の大教室を占拠して、自分でプロジェクターにかけて繰り返し観た。ビデオがない時代、全カット全セリフを覚えようかという勢いで(笑)。声の独特のトーンと字幕のジリジリと、あの眠くなるようなスチールショット……陶然として観ていた。物凄い快楽というか、何度見ても飽きなかったね。

 

中学生の時からSF映画と名のつくものはだいたい見てきたんだけど、これはちょっと異色というか意表をつかれた。言ってみればある種のタイムスリップものなんだけど、SFの匂いが全然しないというか、SFという設定を全然見世物にしてない。SFっぽい小道具なんて、ただのアイマスクとケーブル、あとハンモック、メガネ屋さんの検眼鏡みたいなのくらい。印象に残ってるのは、地下の雰囲気。あれは素晴らしいと思った。あと有名な博物館のシーン、標本室ね。あれは痺れたなあ。未来人の表現だけは、あの時代ですら、ちょっとなあ、と思ったけど(笑)。

 

影響されまくった卒業制作

 

すっかり『ラ・ジュテ』にやられちゃって、卒業制作で作った映画が『ラ・ジュテ』をモデルにした映画だった。映画といっても要するにスチールショットで構成しようと。

 

スチールショットを撮ることの良さっていうか、今だったらある種独特の時間がそこに成立するって言い方をするんだけど、当時はそういうことにまで考えは至らなくて、とにかくかっこいい画を並べたかった。学生映画って、照明とか役者とか、足りないものがいっぱいあるからどうしても映像がチープになる。だけどそのチープな学生映画のイメージじゃない、かっこいい映画を作りたかった。それでスチールだったらできるんじゃないかって思っちゃったんだよ。

 

写真はアングルも自由だし、レンズも選べるし、あとやっぱり現像の過程で焼き込んだりとか操作が可能だから。今だったらパソコンを使えば動画でもできるけど、そのころはもちろんそんなものはないわけで。だからスチールショットに自分の考えているような映像的な作品の可能性を感じたんだよね。これならオレでもできる、そんなに金もかけずにすごい映画を創れるんじゃないかって。ところがあにはからんや、スチールショットで映画を撮るのはすごい金がかかる(笑)。だって中間制作物が山ほどあるんだから。

 

そういう映画を撮ろうと決めて、まず何からやったかというと、スチールのカメラを買った。しかもいきなり「ゼンザブロニカ(日本のブロニカカメラ社製の6×6cm判フォーカルプレーン式一眼レフカメラ)」(笑)。これをひと夏バイトしてやっと買った。でもカメラだけ買ったって、フィルムがなきゃ何もできない。ブロニカのフィルムって6×6だからめちゃくちゃ高いんだよ(笑)。

 

次にベル&ハウエル社製の16mmカメラ(フィルモ70DR/スプリング駆動で電気の無いところでも使える軽量小型の16mmカメラ。回転ターレットに標準25mm、ワイド10mm、望遠50mm(または75mm)の3本のレンズがついていて簡単にレンズが交換が可能。)、これは自動車工場に2ヶ月ラインに入ってようやく買った。当時は8mmの全盛時代で、僕の先輩たちはみんな8mmを回していたけど、僕はどうしてもズームが好きじゃなかった。ズームレンズ1本で撮った映画は見ればすぐわかるんだよ。画の抜けも悪いし。僕は単玉主義でレンズ交換ができないカメラは認めない主義だったの(笑)。だから16ミリでもベル&ハウエルを選んだ。あれはレンズが3つ付けられるから。

 

あのころはとにかく映像優先だった。ドラマもヘチマもなくて、とにかくかっこいい映像をとりたくて、ストーリーにはほとんど興味がなかった。そのくせ好きなのは東映のやくざ映画だったりするんだけど(笑)。普段観てるものと作りたいものが全然違う。学生だからそういう自己矛盾に甘いんだよね。そこのところを追い込まない。だから、撮るんだったらとにかく映像だけはキレのあるすごい絵を撮りたかった。

 

その卒業制作は『ラ・ジュテ』と似たような話……でもなくて、ちょっと違うんだけど。男と女の出会いとかいうのは全然ない。女が1人出てくるだけ。後は鳩が1羽。鳩を撮るのがまた大変で(笑)。飛んだら逃げちゃうから、部屋の中で飛ばして撮った。

 

時間を写し取るということ

 

映画ってどこかしら悪夢体験みたいなところが好きで。やっぱり現実で見られないものが見たい。ハリウッド映画みたいな明るくてきれいで楽しくて、きれいなお姉さんがいっぱい出てきてみたいな、それはそれで好きなんだよ。だけどいざ自分が撮るぞってときには、悪夢系にいっちゃう。それは仕事になってからも、時々ひょっこり顔を出してくる。

 

最初に撮った実写の『紅い眼鏡』(1987)も悪夢のような映画だって言われた。大した話もないし、ややこしいし、暗い映画だし。ほとんど全部ナイターなんだよね。空港のシーンとかも、やっぱり無意識に『ラ・ジュテ』が出てきちゃう。『紅い眼鏡』が陰影がきつくて光と影が強烈な、本当に悪夢のような時間が流れてるのは、そういう『ラ・ジュテ』の原体験だよ。

 

アニメだと『トワイライトQ2 迷宮物件FILE538』(1987)、あれも半分くらいスチールショットで作った。セルに写真をゼロックスで焼き付けて、それを仕上げに回して着彩してもらって。あの写真は僕が自分で撮った。ドブ川とか選挙のポスターとか錆びたガスメーターとかそういうやつ。だけどプロデューサーに「毎日カメラをぶら下げてほっつき歩いてたら、映画できないよ」って言われて止められたんで、やむなく後半のスチールは樋上(晴彦/いくつかの押井作品でスチール写真やコンセプトフォトを担当)さんが撮った。ここでようやくプロのスタッフでスチールショットを撮ったんだよ(笑)。

 

実は『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(1984)にもある。真ん中辺りのメガネの長いナレーションが入るシーン。あれは止め絵というかハーモニー(止め絵の一種。質感を出すために、セルにトレスしたキャラに色を塗るのではなく、キャラも含めて背景のような色塗りをすること)だけど、スチールショットのイメージだし、あの鳥が飛んでるカットも実は『ラ・ジュテ』。気を許すとひょっこり顔を出してくる(笑)。

 

最初の原体験って、やっぱり抜けないね。僕も監督になって36年、演出を始めて40年ちょうどやってるけど、根っこのところは全然変わってない。『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』(2008)をやったときに確信したんだけど、やっぱり映画のテーマというのは「時間を写し取る」こと。それしかない。ドラマも俳優もそのために存在する。アニメといえども、時間を写し取るべき。ただアニメは時間が写らないから、どうやって時間を写そうかと『スカイ・クロラ』の時はものすごい苦労した。まぁ僕じゃなくて、アニメーターが苦労したんだけど(笑)。

 

その「時間を写し取る」という思いの原点が『ラ・ジュテ』。時間なんだよ。時間の写ってない映画なんて、ただのドラマのお弁当箱。テレビドラマと映画は違う、どこが違うんだっていうのを学生の頃から割と真面目に考えてた。学生のアタマだから、いくら真面目に考えたって答えなんか出ないんだけどさ。だけどやっぱり、自分で実作を重ねてようやく納得がいった。

 

だから、僕にとって『ラ・ジュテ』というのは、特別な場所に格納されているんです。どちらかと言うと封印してあるんだけど(笑)。前に『ラ・ジュテ』のDVDは一応買ったんだけど、実は買ってから1回も見ていない。ちょっと見るのが怖い。自分の印象と違ってたらどうしようって。

 

(続きはBlu-ray封入ブックレットでお読みください!)

『ラ・ジュテ』デジタル修復版Blu-ray 2017年12月8日発売

 

DAXA-5279 税抜¥3,800 発売元:WOWOWプラス 販売元:KADOKAWA
1962年 フランス映画 28分 モノクロ 1.66:1 モノラル

 

 

男は子どもの頃に戻りたいと願った

それは女が待っているかもしれない世界––––

 

写真、映画、ビデオ、コンピューター……あらゆるメディアを駆使して20世紀後半~21世紀初頭を「記憶」しようとした作家クリス・マルケルが珍しく創作したサイエンス・フィクションは、全編を静止した白黒写真とナレーションで構成した前衛的な短編映画。第三次世界大戦後、崩壊したパリで危険な実験台にされた主人公は、目に焼きついて離れない女性のイメージを追って過去へ、そして未来へと旅をする––––直接的な翻案であるテリー・ギリアム監督の『12モンキーズ』(1995)をはじめ、その後の数多くの<タイム・トラベル>ものに影響を与えた、映画史の中でも特異な地位に屹立する傑作。
●2013年、オリジナル・ネガから修復された美麗HDマスターを使用!
仏語版、英語版音声とそれぞれに対応した日本語字幕に加え、新しく録音した大塚明夫のナレーションによる日本語版音声も収録!
●3音声とも、音響エンジニア、オノ セイゲンがマスタリング
●総文字数1万字を越す特製ブックレット封入
・映画監督・押井守の長文インタビュー「『時間を写し取る』という思いの原点」
・映画研究者・岡田秀則 執筆「クリス・マルケルの不死は私たちの任務である」

 

 

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