総力特集「本当に面白いフランス映画」 総力特集「本当に面白いフランス映画」

映画の歴史は、
フランスから始まった。

1895年にフランスでリュミエール兄弟が発明したシネマトグラフ、それが映画の始まりでした。
以来、トリック撮影やアニメーション、犯罪映画など、
世界に先駆けて新しい表現を開拓し続けているのがフランス映画です。

そして、フランスが生み出した多数の名作の中から、
映画評論でも知られるフランス文学者、中条省平氏が20作品を選出。
その厳選20作を、全作品、中条氏による解説文章付きで放送します。

専門家による選定と解説で、“本当に面白いフランス映画”を、どうぞお楽しみください。

全作品、中条省平の解説付き!

中条 省平(ちゅうじょう しょうへい)
中条 省平(ちゅうじょう しょうへい)

学習院大学文学部フランス文学科教授。パリ大学文学博士。
著書に『フランス映画史の誘惑』(集英社新書)、『映画作家論―リヴェットからホークスまで』(平凡社)、『クリント・イーストウッド―アメリカ映画史を再生する男』(朝日新聞社)など多数。

HDテレビ初放送5作品!毎月1本、HDテレビ初放送作品が登場する貴重なラインナップ。

11月放送作品

中条省平による解説全文は
こちらをご覧ください

11/7 23:00
『愛と哀しみのボレロ』

C・ルルーシュ監督が、世界の4都市に住む家族が、戦争を挟む約半世紀にわたって繰り広げる波瀾万丈の物語を壮大なスケールで描写。J・ドンの壮麗なダンス場面も見もの。

1981年 フランス

監督:クロード・ルルーシュ

出演:ロベール・オッセン/ジョルジュ・ドン

中条省平のここに注目!
国籍の異なる4家族が2世代にわたって交錯する運命のドラマ。
<ボレロ>の舞踏の感動が見る者を直撃する。

愛と哀しみのボレロ

11/7 深夜2:15
『ゲームの規則』

第2次世界大戦前夜のフランスの城館を舞台に錯綜した恋愛ゲームが展開。公開当時は酷評を浴びたものの、今日では映画史上屈指の傑作たる名声と地位を確立した群像悲喜劇。

1939年 フランス

監督:ジャン・ルノワール

出演:マルセル・ダリオ/ジャン・ルノワール

中条省平のここに注目!
フランス最大の監督の最高傑作とされる伝説の映画。
何がそんなにすごいのか? 自分の目で確かめて下さい。

ゲームの規則

11/14 深夜0:00
『恋のエチュード』

20世紀初頭のパリとイギリスを舞台に、英国人姉妹の両方を愛してしまった仏人青年の苦悩を切なく描くフランソワ・トリュフォーの恋愛映画。ジャン=ピエール・レオ主演。

1971年 フランス

監督:フランソワ・トリュフォー

出演:ジャン=ピエール・レオ/キカ・マーカム

中条省平のここに注目!
姉妹を同時に愛してしまった男の物語。
この上なく美しい画面の底から、恋の残酷な真実が浮かびあがる。

恋のエチュード

11/14 深夜2:20
『かくも長き不在』

第14回カンヌ国際映画祭でパルムドール受賞。第2次世界大戦中、ナチスに拉致された行方不明の夫にそっくりなホームレスが妻の前に出現。だが彼に過去の記憶は無く……。

1960年 フランス

監督:アンリ・コルピ

出演:アリダ・ヴァリ/ジョルジュ・ウィルソン

中条省平のここに注目!
小説家デュラスが描きだす記憶喪失のドラマ。
抑制した演出が、逆に戦争の残酷な痕跡を鮮やかにあぶり出す。

かくも長き不在

イラストコラム
おしゃれは、フランス映画が
教えてくれた

おしゃれの代名詞とも言えるフランス映画。あの頃の私たちは、そこからおしゃれを学びました。
ここでは、フランス映画が教えてくれたおしゃれについて、ご紹介します。

11月放送『ゲームの規則』より
 シャネルが教えてくれた、エレガンス

第2次大戦前夜。飛行士アンドレは冒険飛行を終え、愛人クリスチーヌの夫の貴族ロベールが主催するパーティーが開かれる別邸へ行く。そこでは乱痴気騒ぎが繰り広げられ、やがて悲劇的結末が訪れる。

ココ・シャネルの手がけた衣装

序盤は「フィガロの結婚」的な痴情の縺れの群像劇。大勢の登場人物が織りなす複雑な関係性を、手際よく演出するジャン・ルノアール監督の手腕は今見ても見事だ。そして、美しい映像に華を添えたのは、ルノワールの友人であったココ・シャネルの衣装である。リトル・ブラック・ドレスやジャージー素材のドレスによって、きつく締め付けるコルセットから女性を解放したシャネルは、この映画の中でも古めかしいドレスではなくスタイリッシュな狩猟用のスーツをデザインしている。彼女は、かつて愛人であったウェストミンスター公爵の故郷・イギリスの紳士服から着想を得て、女性に合うスーツを生み出した。のちにブームとなるシャネル・スーツである。また、作中に出てくるワンピースドレスは過剰な装飾を省き、布の美しいドレープを生かしたもので、シャネルのエスプリを感じることができる。

二人の天才が生んだ、永遠の一本

シャネルは本作製作年の1939年当時、すでにハリウッド映画衣装にも進出し大企業に成長していた。シャネル本人も身を寄せた社交界衣装は勝手知ったるもので、シンプルこそエレガントと言ったシャネルのデコラティブさだからこそ、現代に馴染みのない社交界衣装も鑑賞しやすい。

ルノアールと親交のあったシャネルは、テーマ性での共鳴も感じたはずだ。ルノアール監督自身は本作を「ブルジョワに関する、楽しんでもらえて批判にもなる映画を作ったつもりだった」と語る。しかし、本作のカオスのエネルギーは公開当時でも強烈過ぎたのか、映画は上映禁止の憂き目にあう。

シャネルはかつて、ファッションに自由をもたらし革命を起こしたとまで言われたが、本人は革命を起こそうとは思っていなかったと語っている。この作品は、本人達の思惑以上に影響力が強すぎた天才2人が組んだ、驚嘆すべき群像劇なのだ。

女性の永遠の憧れであるシャネル。ルノワールによって生み出された一本の映画が後世に残る名作となったおかげで、80年近く経った今も、映画の中で息づくエレガントなファッションを私たちは楽しむことができる。
*イマジカBSにて、放送版もお楽しみいただけます。

10月放送『レオン/完全版』より
マチルダが教えてくれた、黒いチョーカー

フランス人監督がハリウッドに乗り込んで大ヒット映画を作る。これは監督リュック・ベッソンが「レオン」を制作した1994年当初、誰も想像できない大番狂わせだった。そして作品的評価以上に「レオン」が圧倒的支持を集めたのは、当時13歳のナタリー・ポートマン演じる少女マチルダの、時代を超越した魅力だった。

“マチルダファッション”

マチルダは、ヘソが出るぴったりとしたニットトップスに、ビッグサイズのMA-1(フライトジャケット)やルーズなシルエットのクロシェニットのカーディガンを合わせる。戦闘的なMA-1をモダンなボブ・ヘアーで着こなすナタリー・ポートマンは、レトロとストリートがミックスした多様な価値観とエネルギーの象徴であり、今もファンのハートを掴んだままだ。

象徴的アイコンとしてのチョーカー

マチルダの首には常に黒いチョーカーが巻かれている。そのボブのヘアスタイルによって強調されたすっと伸びる首を、チョーカーを加えることでより魅力的にみせているのだ。90年代はロックやストリートなどの要素を加えたグランジファッションが流行する。そのアイテムの一つとして流行したアクセサリーが、チョーカーだった。マチルダのチョーカーのカラーは、あくまでもブラック。家族を皆殺しにされ、社会のアウトサイドで生きることを強いられるマチルダ自身の宿命を表すような象徴的アイコンとなっている。このチョーカーに、マチルダのサバイバルの為の反逆と、彼女の生きる理由である愛が重なって見える。

流行を繰り返すファッション

ここ数年はケンダル・ジェンナー、ジジ・ハディットなど世界的に活躍するティーンモデルたちがきっかけとなり、チョーカーをメインにグランジファッションがリバイバルしている。マチルダ同様、グランジファッションに身を包んだフレンチ・ロリータ歌手ヴァネッサ・パラディ、俳優ジョニー・デップの娘であるリリー=ローズ・デップ がチョーカーをアクセントに加えてスタイルアイコンになっているのもリバイバルの兆しを感じさせる。

20年経った今でも衰えないマチルダの人気。その理由は、彼女のキャラクターを視覚的に強く印象付けるファッションやヘアスタイルに、マチルダ自身の強烈なエモーションが隠されているからではないだろうか。
*イマジカBSにて、放送版もお楽しみいただけます。

9月放送『5時から7時までのクレオ』より
クレオが教えてくれた、黒いワンピース

シンガーのクレオは、2時間後に医者の診察を受ける。自身の癌を予感し、死の恐怖を感じた彼女は、黒いワンピースを身にまとってパリの街を彷徨う。そんな時出会った兵士アントワーヌ。不安な気持ちを共有できる相手を見つけ、クレオはアントワーヌと共に医者に会いに行く。

リトル・ブラック・ドレス(LBD)

街を彷徨うクレオが着る黒のワンピースは、リトル・ブラック・ドレス(LBD)と呼ばれ、現代でも定番のスタイルとして愛されているアイテムの一つである。1926年にココ・シャネルが発表した、コルセットを使用しないストンとした黒いワンピースは女性の身体を解放する。それに加え、黒のドレスはビジューやネックレース、ベルトなどの小物を使って個性を出せる自由さが受け入れられ、ファッショニスタの定番となった。

未来への不安を表す“黒”

クレオは、それまでのファンシーなファーやドットのポップな服装から一変し、シックな黒のワンピースに同系色のストール、インパクトのある大ぶりなモチーフのネックレースを合わせ、気品と知性を感じさせるフォーマルな装いを見せる。それは、映画の雰囲気を一気に変える鮮烈な印象を与える。彼女は死への不安から、夢を見るよりも、現実へ立ち向かう勇気をかき集めなくてはならなくなる。ある種の自己探求に入る為に、輪郭のハッキリしたエレガントな黒のワンピースで正装したかのようだ。待ち受ける未来への漠然とした不安を表現するのに「黒」という色がふさわしいと、監督のアニエス・ヴァルダも考えたのだろう。

癌の不安に立ち向かう過程で、真実の恋人にも出会う事になるクレオ。タイトル通り本作は“5時から7時まで”の2時間弱がリアルタイムに近い形で進行する中で、クレオの大人の女性への移行も凝縮して描かれており見事だ。そしてクレオが彷徨う1961年の強い日差しのパリの、瑞々しい眩しさが美しい。

リトル・ブラック・ドレスを推奨したのはシャネルだけではない。映画『ティファニーで朝食を』でのオードリーのブラックドレスを手がけたユベール・ド・ジヴァンシィの存在も忘れてはいけない。映画史に残る印象的なシーンには欠かせないLBD。時代を超えるファッションアイテムとして、永遠に愛されていくことだろう。
*イマジカBSにて、放送版もお楽しみいただけます。

8月放送『アメリ』より
アメリが教えてくれた、赤いニット

神経質な母親と、冷淡な父親に育てられたアメリは、コミュニケーションの苦手な女性に育つ。カフェで働くある日、彼女は人を幸せにする喜びに目覚める。そんな時、自分と同じ孤独で個性的なニノを好きになる。自分に気づいてもらおうとするアメリだが…。

ファンタジックなアメリの世界

フランス色が濃い、華奢で華のあるオドレイ・トトゥが演じるアメリの美しさに、誰もが魅せられた。暖色系を基調にしたファンタジックな映像世界。短い前髪から覗く子供のような瞳で、フィット感のある赤いニットを着て緑の背景に佇むアメリは、劇中の彼女自身の戸惑いを超えており、パリの街に咲く花のように官能的ですらある。本作の衣装を担当したのは、『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』でアカデミー賞衣装デザイン賞にノミネートされるなど、今後の活躍が期待されるコスチュームデザイナー、マデリーン・フォンテーヌ。彼女の衣装デザインによって、レトロで網目の種類の違うニットや、ロマンチックなドットのカットソーでニノといる歓びを控えめに表現したり、ドットの赤い傘や雨や水切りの水紋で水玉をリンクさせたりしている。クレーム・ブリュレを割ってユーモアとカタルシスをミックスしたり、潤いも軽妙さも忘れないバランスは、おしゃれなフランス映画の極致となった。

アメリのテーマカラー“赤”

アメリは作中、赤いニットをはじめ、赤を差し色として使っている。モノトーンのベーシックな服に赤を差し色として使ったりと、「差し色」をポイントにするコーディネートをパリジェンヌたちは得意としているのだ。フランス人は赤ちゃんが生まれるとそれぞれの子供にその子にあった色を与えることを知っているだろうか?一人っ子の家庭が少ないフランスでは、それぞれの子に特徴を作ろうとテーマカラーを与える。ただ無作為に色を与えるのではなく、多くの人が瞳や髪の色に合った色を選ぶ。青い目をしている子には青を、オレンジや赤毛の子には緑、黒髪には赤を合わせるのがスタンダード。アメリの髪はブルネット(黒)のため、彼女は差し色として赤を使っているのだ。パリの街角で、美しいブルネットに赤のベレー帽を合わせたり、オールブラックのコーディネートに赤のリップを合わせるパリジェンヌが多いのもうなずける。

シンプルな組み合わせに差し色を。今日のティータイムは、赤いニットを着てクレーム・ブリュレはいかが?キャラメリゼを最初に割るのも忘れずに。
*イマジカBSにて、放送版もお楽しみいただけます。

7月放送『なまいきシャルロット』より
シャルロットが教えてくれた、ボーダーシャツ

思春期を迎える13歳の少女が主人公の本作では、カリスマ歌手セルジュ・ゲンズブールと女優ジェーン・バーキンの娘シャルロット・ゲンズブールが主演に抜擢された。

ボーダーシャツ流行の原点

1985年12月にフランスで封切られた本作は、一躍“シャルロット旋風”を巻き起こす。街では、さりげない彼女のスタイルを真似する少女がたくさん現れた。今では定番となったボーダーの長袖Tシャツも、この映画で彼女が着ていたのが流行の原点。肩がずれ落ちそうな2サイズ大きめのボーダーシャツの袖を折り曲げ、華奢な手首がチラッと見えるような七分丈にし、デニムスカート、ホワイトスニーカーを合わせる、現代のノームコアの原点にもなるスタイル。この時着ていたボーダーシャツは、フランスの老舗ブランド 「オーシバル」のものだ。

由諸あるブランド「オーシバル」

フランスのボーダーシャツを代表するブランドにはセイントジェームス、オーシバルの二つがある。青いミツバチのマークでおなじみのオーシバルは1939年にフランスのリヨンでチャールズ・バトンが創立したブランドで、ブランド名はフランス中部にある小さな村から名付けられた。50年代から60年代にかけてフランス海軍の制服に起用され、ピカソなどにも愛されたことで有名になったオーシバルのボーダーシャツは、ラッセル編みという普通のカットソーよりも複雑な構造で作られた生地で、毎日洗濯してもへこたれない、丈夫な生地でワークウェアとしてフランスで愛されている。

日本の少女を魅了したシャルロット

インパクトのあるアイテムというより、どこにでもありそうなスタンダードなアイテムをサイズやディテールで魅せる「チープシック」な着こなしで、シャルロットは、日本でも雑誌「オリーブ」を読む女の子たちにとってのアイドルになる。ファッションだけでなく、この映画で彼女が演じたキャラクターそのものが、今なお多くの少女の共感を呼んでいる。

原題の“L‘Effrontée”は「なまいきな女の子」という意味。もう子供じゃない。でも大人でもない。その境界線にきた少女の不安感をこれほど繊細に画面に現した女の子は、今までいなかった。どこにでもいそうでいながら、特別な雰囲気を醸し出すシャルロットの魅力。あの頃の私たちは、彼女の着たボーダーシャツを真似することで、少しでもその魅力に近づこうとしていた。
*イマジカBSにて、放送版もお楽しみいただけます。

イラストレーター:Aiko Fukuda

1986年千葉生まれ。ブリッジウォーター州立大学芸術学部グラフィックデザイン学科卒業。
帰国後グラフィックデザイナーなど働く傍ら、趣味で点描画を描き始める。
2014年よりイラストレーターとして活動を本格化させ、一本のペンで描かれる繊細かつ独特な世界観でファッション誌や広告、美術館背景などで起用される。
AIKO FUKUDA [http://www.aikofukuda.com/]