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スチールブックの作り方

5/26発売の『ユーリー・ノルシュテイン作品集』Blu-ray&DVDで初めて「スチールブック®」を手にした方も多いと思います。スチールブックはデンマークに本社を持つスキャナボ(SCANAVO)社の登録商標で、現在、これに収められたBlu-rayを集めているコレクターが世界中にいらっしゃいます。ちなみに後発の会社による似て非なる製品の場合は「スチールケース」などと書かれています。

 

スチールブックとは名前のとおり、金属製の本型をしたケースです。何も印刷していない状態だとこうです。

金属部分は表側、裏側、背の3パーツに分かれていますが、ディスクを固定するための内側のプラスティック面によってそれらが繋がっている状態です。ノルシュテイン(の外側)を例にそのデザインの仕方の一例をご紹介しましょう。

 

まず、この金属の質感をどのように活かすか、殺すか、その使い分けが全体のトーンを大きく決定付けます。一番最初に真っ白のインクを刷るのですが、金属感を活かすところは白を載せず、逆に後で印刷する絵柄をハッキリさせたい時にはガッツリ100%の白を載せておきます。これがノルシュテインの「白版」です(便宜上、マゼンタで表現してあります)。

ご覧のように前景となる地面や木、キャラクターの部分はほぼ100%、背景となる部分はそれよりも薄いアミ点になっており、両者の段差には微妙なグラデーションもあります。白版が完全に抜けているのは文字の部分だけです。ホタルの光を表現するのに金属の質感を活かすのと殺すのとどちらが有効なのか悩みましたが、金属感を活かすとスチールブックを見ている場所の環境によって見え方が随分変わってしまうことを考えると、ここはやはり「殺す」という判断。

 

次に絵柄を載せます。これは通常の紙の印刷でも最もポピュラーな「プロセス印刷」とか「4色印刷」とか言われるC(シアン)M(マゼンタ)Y(イエロー)K(キープレート=ブラック)の4色版です。この4色の配合で全てのカラーを表現するわけです(どうしてもそれでは表現できない場合は、その色そのものの特色インクを別版で刷ることになりますが、当然その分、お金は余計にかかります)。これがその4色分(マゼンタのラインは成形する時の折れ線を示すためのものですので無視してください)。

文字の部分とホタルの光のピークの部分は完全なヌキ=何も色が載ってない状態になっています。文字の部分はさっき、白も塗っていませんから、地の金属がそのまま見えることになり、ホタルの光のピークは下に敷いた白が見えることになります。

 

スチールブックの表面はまず、テカテカしているグロッシーか、ツヤ消しのマットか、どちらかを選ぶことになっています。今回はグロッシーを選びましたが、さらにこの上に光沢を殺すためのマット(つや消し)・ヴァーニッシュ(=ニス)を載せることで、風合いおよび立体感を出しています。これがマット・ヴァーニッシュ版。実際は透明ですが便宜上、シアンで示しています。

最初の白版とは逆に前景のキャラクターの部分はヴァーニッシュ0%でテカテカのグロッシーの地をそのまま活かします。表のハリネズミの背景、および背の部分はガッツリ載せていますが、裏の灰色オオカミの方の背景はその半分しか載せてません。効果がどのように現れるか分からなかったので、実はこれの逆パターンも作ってみて、金属板の色校を出して貰って比較したのですが、ハリネズミ側のヴァーニッシュを半調にすると前景後景の落差が少なくて面白くない、逆にオオカミ側のヴァーニッシュを濃くすると前景後景の落差が付きすぎて意外に平面的に見えてしまう、という結果となり、上記のパターンを採用しました。そしてホタルの光のところも当然のことながらヴァーニッシュは載せてません。

 

で、出来上がったがこちらです。

白を薄めにしか敷かず、またマット・ヴァーニッシュを載せた背景部分は周囲の環境によって色、見え方が変化する、というわけです。また完全に金属が露出した文字部分も周囲の環境によってはまったく見えなくなったりします。

ノルシュテインの作品はどれも絵の「質感」が極めて重要ですので、今回の商品化にあたっては、手に取るものにも何か特別な質感が欲しいと思って、スチールブックを採用しました。スチールブックはSFやアクション、アニメ等の作品で使われることが多いのですが、このような詩的な作品の場合でも絵柄や表面加工の選択次第で面白い効果を生み出せるなあ、と実感した次第です。ちなみにスチールブックは表面に出っ張りを付けるエンボス加工や、凹みを付けるデボス加工もできますが、今回は使ってません。

 

因みに封入のブックレット、アートカード、スチールブックを包む帯の紙も全部質感の違うものを使っています。以下にその紙の種類を。

 

ブックレット表紙=ベストマットに表側のみPP加工

ブックレット本文=アドニスラフ70

アートカード=マーメイド

帯=キャピタルラップ(片艶晒クラフト)

 

今回もパッケージまわりのアートワークは全て、いつものシネフィルBlu-ray作品をお願いしている塚本陽さんによるデザインです。個人的には2匹目のホタルの光を敢えて表紙と背に渡らせて、さらに裏のオオカミ側にもフレアを少しだけ残す、というところに「さすが」と唸りました。こうすることで視線に動きが生まれ、それがまたスチールブックを「立体物」として印象づける効果を生み出したと思います。

 

それと、実は以前に、メルヴィル/ドロンの『サムライ』で、スキャナボさんに試作品を作らせて貰ったことがあったのです。結局商品化は実現しなかったのですが、この時にいろんな効果の実験をしておいたのが本当に今回の助けになりました。やはり経験に勝る教科書はありませんね。

 

 

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