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【世界の巨匠〈アッバス・キアロスタミ〉】「そして人生はつづく」

1990年、『友だちのうちはどこ?』の舞台となった村を大地震が襲った。地震から数日後、映画に出てくれた少年たちの安否を訊ねて映画監督とその息子が村へと向かう……。 『そして人生はつづく』は、キアロスタミ映画に特徴的となる二重化が初めて導入された作品だ。二重化、つまり映画の対象となっている舞台=世界が、ドキュメンタリーとフィクションの両極にまたがってゆくというきわめて映画的な事態が、しばしばキアロスタミ映画では起きるのだが──たとえば『風が吹くまま』や、本作ののちにつくられた『オリーブの林をぬけて』でも──その端緒が本作にあるのだ。

監督を演じるのは、当然、キアロスタミ自身であるべきはずであるのにもかかわらず、彼本人はこの映画には登場せず、キアロスタミを演じる俳優(ファルハッド・ケラドマン)が彼に成り代わって地震ののちの村の惨状を目撃し、前作で縁のあった人物たちと逢い、会話を交わしてゆく。つまり、キアロスタミはメタ・レヴェルにおける演出家であり続け、その結果として、本作はフィクションを通したドキュメンタリーであり、と同時に、ドキュメンタリーを通したフィクションでもあることになる。

 

このやや、ややこしい事態はしかし、本作に静かに流れるヒューマニズムをいささかも裏切ることはない。地震という天変地異にも相当するような大事件を受けとめ、日常を続けつつ生を生き抜こうとする人々の心意気をフィルムにつなぎ留めてゆく。東北大地震を経験したぼくたちは、いまこそ、この映画ともういちど相見えるべきだろう。そこに写し出されているものは、まぎれもなくあのときの日本人でもあったはずだから。

 

道はどこまでも真っ直ぐではなく、目的地など見えることもなく、ただジグザクと定まらない道程を行く父子の物語。人生とはまさにこのようなものではないだろうか。人生そのもののようなこの映画、これを見ずしてキアロスタミ映画は語れない!