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【世界の巨匠〈アッバス・キアロスタミ〉】「オリーブの林をぬけて」

キアロスタミの初期、「ジグザグ道三部作」の巻尾を飾る作品だ。その始まりは『そして人生はつづく』から。その撮影時に起きた小さな事件が発端となっている。

 

劇中の挿話のひとつ、大地震の翌日に結婚式を挙げた男女のエピソードから、映画の登場人物として求婚し、される男女の恋の物語が生まれたという。そう、この映画もまた、巧妙に仕掛けられたフィクションとドキュメンタリーの融合のうちに、小さな人生の在りようが浮かび上がってくる、これぞキアロスタミ映画というカラクリに唸らされる作品だ。  けれど、だが、この映画の魅力はむろん、それだけではない。トリュフォーが『映画に愛をこめて/アメリカの夜』を生きたように、あるいはカレル・ライスが『フランス軍中尉の女』で描いたように、本作『オリーブの林をぬけて』もまた、映画内映画であるのだ。映画という疑似人生を生きてゆく人物たちが、映画のなかで、映画を通して、もうひとつの人生を見つけてゆく。

 

現場の雑用係から代役として突然、人物のひとりを演じることとなったホセイン、その彼から実際の人生において求婚されていたタヘレ。この求婚劇は、タヘレからの拒絶によって幕を閉じていたはずだった。映画は、このふたりが結婚式を挙げる様子を演じさせる。その機会を利用して、再びタヘレに求婚するホセイン……。キアロスタミの映画は、このふたりにもうひとつの人生を演じさせつつ、映画の外にある物語をも、逐一、カメラによって記録してゆく。映画というものの、まだ見ぬ可能性と興味を更新しながら。人生と映画を賭けて……。

ラスト・シーン、撮影が終わり、なかなか出発しないトラックを降りて歩き出したタヘレをホセインが追いかける。次第に遠く、遠く、ジグザクの道を走りぬけるホセインの姿。その彼がどうなったのか、キアロスタミは慎み深く映画を終わる。映画と人生が、まさにひとつに溶け合った瞬間、そのじわ〜っとくる感動を目いっぱいご堪能いただきたい。