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ピーター・カッシング、いよいよ壊れる……『フランケンシュタインと地獄の怪物』

 

間に合った! 英国インターナショナル・シアターで公演された舞台『フランケンシュタイン』が映像化。昨年3月に日本の映画館で限定上映されていたのだが、先頃再上映された3日間の最終日にようやく観に行くことができた。ベネディクト・カンバーバッチとジョニー・リー・ミラーが、フランケンシュタイン博士と彼の創った怪物を公演ごとに交互に熱演し、称賛を浴びた。2012年度、二人は英国演劇で最も権威あるローレンス・オリヴィエ賞主演男優賞をダブル受賞。演出は『スラムドッグ$ミリオネア』を監督したダニー・ボイルだ。それにしても驚いた。まさか『フランケンシュタイン』を観て、感動が胸に広がるとは。博士と怪物は互いを憎悪しながらも、命を与えた者と与えられた者、二人は生き写しのように共鳴し合うなんて視点はまったく新しいものだったし、どんな登場人物にも――怪物にさえも!――ユーモアと人間味を与える演出によって、観客の心はどんどん引き寄せられていき、最後には胸打たれたのだ。

 

日本でも「フランケンシュタインもの」が創作されている。伊藤計劃の遺稿を、円城塔が引き継いで完成させた共著『屍者の帝国』だ。2014年11月に文庫化されたのを機に手にとった。博士が発明した蘇生技術がもしも一般化していたら?という、もうひとつの19世紀が舞台だ。指示通りに動く死人たちが労働力として重宝されるだけでなく、兵力にまで用いられている世界だ。痛覚がないため、どちらかが動作不能になるまでひたすらに続ける無言の肉弾戦は必見。蘇生術の秘密が記された「ヴィクターの手記」を求め、諜報員ワトスンが世界を駆けめぐるスチームパンク大作となっている。

 

原作『フランケンシュタイン』が、メアリー・シェリーにより発表されたのは1818年。それからもう200年近くが経つのに、いまだに新たなテーマを生み出し続け、世界中で創作の源となっている。1931年、ボリス・カーロフを怪物役にユニバーサル・ピクチャーズが映画化したものをはじめとして、映画化、リメイク、二次創作の数は枚挙にいとまがない。中でもとりわけ、映画リメイク版の成功をきっかけにドラキュラ、狼男、ミイラといった古典ホラーの映画化にも着手、傑作ホラーメーカーの代名詞とまで言われるに至った映画制作会社が、英国ハマー・フィルム・プロダクションだ。

 

1957年、ハマー・プロが初の本格ホラー映画として手掛けた『フランケンシュタインの逆襲』がヒットを飛ばし、翌年には続編『フランケンシュタインの復讐』が公開された。その後もシリーズ化され、1974年までに合計6作が製作された。1作目だけは、おおむね原作のストーリーどおりだが、2作目以降は完全にオリジナルストーリーだ。命を創造しようと、フランケンシュタイン男爵はあの手この手で生体実験を繰り返すが、いつも最後には失敗して悲痛な結末を迎える。そう、ハマー・プロ版のシリーズでもっとも恐ろしいのは、実験成功のために生涯を費やし、友人だって犠牲にする男爵その人だ。1作目で、人間を創造するための臓器を手に入れようと、人殺しをしたのだから本末転倒。怪物も顔負けの狂気っぷりだ。そしてこの、映画史上まれに見る悪漢の存在は、当時BBCドラマでスターだったにもかかわらずハマー・プロからの熱望により出演し、全6作にわたって男爵を演じた、ピーター・カッシングなくしてはありえなかっただろう。いや、彼はまさにフランケンシュタイン男爵そのものとなった。突き刺すような眼光と、知識に裏付けされた明朗な語り口。他の誰よりも英国紳士然とふるまっているが、頭の中は良好な臓器をかき集めることで一杯のマッドサイエンティスト。そんな男爵のイメージを、彼は確立したのだ。

 

シリーズを通じての一つの見どころは、ピーター・カッシングの登場シーンだ。「フランケンシュタインもの」なので、必ず男爵は登場する。でもこの男、そうは簡単に現れてくれない。というか、1作目でギロチンの刑に処されて以降、いつもラストでは悲劇の死を遂げているため、どこでどう「復活」するか分からないのだ。第6作目にしてシリーズ最後の本作『フランケンシュタインと地獄の怪物』でも、前作『フランケンシュタイン 恐怖の生体実験』のラストで焼死したはずなので、どこで生き延びているんだか分からない。『地獄の怪物』は、死者復活の夢にとりつかれた青年医師が、その非道な実験により逮捕されるところから幕は上がるが、役者ピーター・カッシング。今回の登場もビシッと決まっている。最初の実験が失敗に終わってから苦節十年以上。もはや、狂人ぶりにも箔がついているのだ。しかも、いささか場違いなところで、黒のスーツにシルクハットの装いで登場。右手にはさりげなくステッキを握っている。正装だ! 気品と才能と冷血が同居する、その唯一無二の魅力をぜひ味わってほしい。

 

そんな男爵の、科学の限界に挑む偏狂さは、『地獄の怪物』が全シリーズで一番だろう。というのも、今回、実験により生み出された怪物の見た目がろくなものじゃないからだ。脇がしまらないほど筋肉隆々の身体に、垂れ目のゴリラ顔がのっかっているという具合。男爵みずから「人よりも獣に近かった。まるで原始人だ」と語るような男の体を使用する。今までの怪物がだんぜん「男前」に思えてくるほどだ。それでも、見た目なんて二の次。正視できないような醜い怪物が目覚めると、「これで世間も認めてくれる」と祝杯をあげる男爵の姿は、もはや異様としか言いようがない。

 

狂気が極まった男爵と、史上最悪の怪物。映画の主役としては見るに堪えない組み合わせのはずが、驚くことにラストまであっという間だ。テンポの緩急が抜群に心地よく、要所で流れる音楽が言葉以上に情感をかきたてるからだ。不要になった脳みそを男爵が足で蹴とばすという、それはまあ酷いシーンがあっても、意外と不快感は残らない。監督テレンス・フィッシャーは、映画のもつ娯楽としての役割を決しておろそかにしない。不要なグロテスクに走ることは決してなく、観賞後には「いやー面白かった!」という、むしろ痛快な余韻だけを残してくれるのだ。

 

なんと、本作『フランケンシュタインと地獄の怪物』は監督の遺作。しかも日本未公開作だったので、ほぞを噛んだ映画ファンも多かったに違いない。円熟期を迎えた英国ホラーのヒット・メーカー。その職人技が光る一作だ。

 

 


フランケンシュタインと地獄の怪物(モンスター)
FRANKENSTEIN AND THE MONSTER FROM HELL

1974年 イギリス
監督:テレンス・フィッシャー
出演:ピーター・カッシング、シェーン・ブライアント、マデリン・スミス、デヴィッド・プラウズ(ダース・ベイダーの中の人……3年後の『スター・ウォーズ』第1作の悪役2人がこの作品で既に共演)

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